2005年11月26日

はだか

会える日は化粧を落とす
 頬と頬へだてるものはなにもいらない (林あまり


おや、とタケノコトリさんは視線を落とす
コップのなかから液状になった水でできたひとが呼んでいる
ときおり水でできたひとは液状に、なる
平生の水でできたひとはネクタイやらワイシャツを着て生温かい声でタケノコトリさんを呼ぶ
液状になった水でできたひとの声はひんやりしている
いらっしゃいな
こっちにいらっしゃいな
まぐわいをいたしましょうよ、と
わたくしは水でできていませんから液状になってコップのなかに入れませんわ、タケノコトリさんは応える
だいじょうぶ
いらっしゃいな
それはとても簡単なことです、水でできたひとは云う
タケノコトリさんは衣服を剥いでコップのなかへするりと入る
いくぶんタケノコトリさんの態が残ってはいるがすんすんとそれがタケノコトリさんの液体なのか水でできたひとの液体なのかわからないほどに混ざっていく
ころん、と先ほどまでタケノコトリさんが身につけていたイヤリングが転がり落ちる音が響いて、止んだ
ふたりが重ねる液状の音だけが部屋にいつまでもいつまでもいっそう鳴り止まないでいる
牡丹の花がほつほつと落ちていく
20050622


【関連する記事】
posted by 日菜清司 at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月18日

ほおずり

要するに、うさぎの耳が長いのと同じであたしのほっぺは赤い。 (紅茶イチコ

月でうさぎが跳ねている
夜がすんと震える
ほら、恋人は云う
ほんとだ、ぼくは応える
夜はすんと震えている
いきましょうよ、恋人は云う
月へ?、ぼくは問う
ええ、歩いていけないところはないわ、恋人は云う
なるほど、ぼくは応える
アップルパイを100枚焼いてぼくと恋人は頬と頬をくっつけたまま歩きだす
恋人はこれまでに聞いたこともないくらい長いながいながいながいながい話をそっとはじめた
ぼくの耳はその話を聞くためあらかじめ用意されていたようにぐんと伸びる
すんと夜は震える
20051117
posted by 日菜清司 at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月09日

古物屋

近づくと離れてしまう袖とひゃくまんかいのしゅんかしゅうとう、うん

古物屋の店主に薦められて睦言を買う
いまどき睦言を持ってらっしゃらないとは珍しいですな、
うちの倅ときたら学生だてらに7つも睦言を持っていやしますよ、にやにやと店主はぼくを擽る
それでは買おうと値段を尋ねる
ぼくのひと月分の給金ほどである
果たして中古の睦言の市場価格はいかほどなのかとんとわからぬので現金で支払いを済ませて家へ持ち帰る
そのようにして睦言を手に入れた
やはり睦言であるからのべつ睦言を喋る
愛しているわ、だの
百年経っても愛しているわ、だの
百万年経っても愛しているわ、だの睦言をぶっつける
中古の睦言であるからぼくがなにを言おうと返事はくれない
ずっと愛しているわ、だの
あたしは永遠を知っているわ、だの
決して決して後生だから離さないでね、だの言う
そのようにして一ヶ月のあいだ仕事にもどこにも出掛けないで部屋で睦言を聞いている
愛しているわ、愛しているわ、愛しているわ、ずっとよ、ずっとよ、ずっとよ
古道具屋へ返しに行かねばならないと思う
そうしないとぼくが壊れていくだろう
思うがとてもそんなことはできない
睦言はのべつ睦言を繰り返す
ぼくはずっと睦言を聞いている
20051109
posted by 日菜清司 at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | my song | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月05日

恋人のはなやまい

伝えたいを伝える聾の恋人の指を携帯します、晴れです

恋人がはなやまいを患う
言葉ではないもので話しすぎたせいだろうか
はなやまいを患うとおでこから2本の触覚と背中からは黄色い羽根が生えてくるのである
ほとんど蝶のなりである
蜜を舐めつづけないとみるみると縮む
ぼくの手のひらに乗るほどである
恋人の耳は小指の先ほどに縮んでいる
50cmほどならば、飛べる
ちゅらちゅうぱらりろらって、恋人は云う
はなやまいの典型的な症例である
ぼくは言葉に頼りすぎ、恋人は言葉ではないものに頼りすぎたせいだろう
恋人はみりみると縮んでいく
ぼくはほとんど蝶のなりになった恋人を肩に乗せて日曜の晴れた花畑で蜜を集めている
りゅららりゅうられれらりっぱ、ほとんど蝶のなりをした恋人は囀る
喜んでいるのだろう
すこおしずつ人の表情に戻りつつある
20051105
posted by 日菜清司 at 20:38| Comment(0) | TrackBack(0) | my song | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月25日

むらさきさんの冬支度

まあだだよ、ちいさいひとはゆうやみへもっとちいさい冬のむらさき

片想いの人にいただいたむらさきさんが帰ってこない
菜種油を買いに行ったきり戻ってこない
育ちきっていないせいだろうか
背丈はぼくの膝小僧まで伸びており簡単な言葉なら解するようになっていたのだ
迂闊であった
菜種油なぞ自分で買いに行けばよかった
ぼくは元来むらさきさんを育てるのに向いていないのである
今頃むらさきさんはラベンダー畑でみるみる縮んでもうそれがむらさきさんかただの花びらか見分けられなくなっているだろう
20051020
posted by 日菜清司 at 19:19| Comment(0) | TrackBack(0) | my song | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月17日

祖母のむらさきさん

うすむらさきに夜があけるころ霧はたち去る夜と同じところへ (小林久美子

タケノコトリさんが拾ってきたむらさきさんは液状であった
いろいろな形状のむらさきさんがいるのである
図鑑によると手のひらに乗るのやら、6mはあろうものやら、耳掻き棒の先っぽでくうくう眠っているむらさきさんもいる
であるからタケノコトリさんが拾ってきたむらさきさんが液状であってもなんら不思議はない
むらさきさんを水差しに入れて持ち帰る
近頃ではめっきりむらさきさんを見かけることがない
タケノコトリさんの祖母の幼いころにはラベンダー畑に30から50のむらさきさんがぱたぱたと走り回っていたそうである
それが近頃ではラベンダー畑に行っても耳朶ほどのむらさきさんの死骸を見つける程度である
タケノコトリさんの祖母はいたくよろこんでむらさきさんの世話を焼いた
水差しを洗い餌の小魚の骨を丁寧に取っては食べさせてやる
祖母はだんだん縮んでいく
半分くらいだろうか
祖母はありがたいありがたりと云ってはむらさきさんの世話を焼いている
祖母はみるみる縮んでいく
半分の半分くらいだろうか
むらさきさんはよく食べよく育つ
朝、祖母は小指の先ほどに小さくなって死んでいた
水差しでは足りないほどに大きく育っているむらさきさんはタケノコトリさんが与える餌には口をつけない
むらさきさんはみるみる衰えていく
もうそれが秋の雨かむらさきさんの液体かおよそ区別できない
祖母が死んでから雨は降りつづいている
20041105
posted by 日菜清司 at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月04日

むらさきさん

うすむらさきずっとみていたらそのようなおんなのひとになれるかもしれない (今橋愛

むらさきさんはラベンダー畑で拾ってきた
くうくうと眠っていたのである
このご時世なかなかむらさきさんに出会えるものではない
そういうわけでむらさきさんを拾ってきた
ちょうど手のひらに乗る大きさである
が、近頃はぼくの膝小僧の背丈にまでなっている
むらさきさんはすくすくと成長している
簡単な言葉なら解する
洗濯物を取り込んだりYシャツやらハンカチにアイロンをあててくれたり鯵の日干しを拵えてくれたり甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのである
そんな日々がいくらかつづく
むらさきさんの背丈はぼくの腰骨のあたりまで伸びてきた
すくすくと成長しているのである
すると夕方になっても洗濯物を取り入れなくなりアイロンは雑で皺だらけである
鯵の日干しは真っ黒で食えたものではない
ぐうたらと横になってはポテトチップスを食べながらテレビのワイドショーを見ている
話す言葉も乱雑になってきた
てめえよーこのでべそー
ったくよーこのたんしょうほうけい
ざけんじゃねえよーこのいんきんたむしー
もはやラベンダー畑に返しにいくわけにいかない
ひどい言葉でなじられるのは不可避である
むらさきさんは日々はしたない女の子に成長しつつある
20051004
posted by 日菜清司 at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。