2006年02月02日

彼岸

とりもどすことのできない風船をああ遠いねえと最後まで見た (東直子

タケノコトリさんが帰ってこない
紋白蝶に聞いても鶺鴒に聞いても知らないと云う
そういえば、紋白蝶は云う
背中の黄色い羽根がずんぶんと生えていらしてムラサキハナナの蜜を吸っていらっしゃるタケノコトリさんにお会いしましたわ、と
でも、鶺鴒は云う
しばらくタケノコトリさんを見てねえだね、と
ぼくの知っているタケノコトリさんとは様相が違うようである
背中の羽根は肩甲骨に隠れてほとんど見えずせいぜい10cmほどしか飛べなかった
いつの間にそれほど飛べるようになったのだろう
もし、ぼくは云う
見かけたら探していたことをお伝えいただけますか、と
ムラサキハナナの蜜が甘たるい
またお会いできるといいですわね、紋白蝶はひらりと菜の花へと消える
あんまり気にすることねえだね、腹でも減ったらそのうちに帰ってくるだよ、鶺鴒は今しがた出来たばかりの群青の空へと消える
ためしに左足にぐいと力を込めてみたがとんと飛べない
ぼくの背中には羽根がないのである
ぽつねんと空を見ている
060202
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posted by 日菜清司 at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月25日

隻眼

こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり (山崎方代

片の眼球がよく、取れる
片の目がないとコップを手に取るのも難い
取れると、くっつける
くっつけるとコップを掌中にできる
それでも片の眼球はよく、取れる
片の目がないと眼前の恋人を抱擁することが難い
ここよここよと恋人は云う
取れたので、くっつける
くっつけると目の前の恋人を抱擁できる
恋人はほのとあたたかい
片の眼球がよく取れるので難儀している
20060125
posted by 日菜清司 at 19:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月17日

苺ジャム

硝子粒ひかる路面にふたり立つ苺畑の見張のように (穂村弘

苺ジャムの瓶を落とした拍子に片想いの人が、壊れる
ときどき、壊れる
両の手で落としてしまわぬように持っているがつるんと、滑る
アスファルトに落としてこなごなに壊れてしまう
いましがたまで片想いの人と呼んでいたけれどそうなると名は、ない
名がないと後ろから呼びかけるときにまごつく
片想いの人と呼んでいたこなごなの人は陽光に照らされてじつと、いる
いつまでもそこにじつと、いる
名を呼ぶ必要も、ない
夜になると元の片想いの人の姿に戻って立ち上がりすたすたと歩いてゆく
そうすると後ろから名を呼びかける
片想いの人はくるりと踵を返してこちらを、見る
苺ジャムの瓶のなかに片想いの人を詰めて家へ帰る
蓋を閉じても閉じても甘たるい匂いがすんとあふれだしてならない
20060117
posted by 日菜清司 at 20:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月11日

ゆびもじ

ぼくはただ口語のかおる部屋で待つ遅れて喩からあがってくるまで (加藤治郎

聾の恋人が指を忘れて帰る
過去形の話をしたせいだろうか
マンダリン・オレンジのマニキュアが甘たるい
指を拾い集める
あちこちに転がっていて揃えるのは骨である
指かと思って拾おうとすると赤い帽子の女の子やら青い帽子の男の子やらが、いる
100人ほどだろうか
指ほどの大きさの女の子やら男の子やらはおしくらまんじゅうごっこやら滑り台ごっこやら隠れんぼやらめいめいで遊んでいる
すんと眩暈がする
部屋はいっとう甘たるい
遊んでいる女の子やら男の子やらに長椅子の上から外へ出てはならないときつく注意してから聾の恋人の指をふたたび拾いはじめる
指はまだほのと熱い
20060109
posted by 日菜清司 at 19:32| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月08日

ある炎

まばたきのまに −きみが短編映画ではなくてよかった− まばたきをする

なんもかんもを燃やし尽くした放火マの眼の中に恋人がいる
こっちにいらっしゃいな、恋人はしきりに誘う
まぐわいをいたしましょうよ、と
恋人の衣服はなんもかんもが燃えて、なんもない
放火マの眼の中で素裸でぼくを呼ぶ
声はいっとう甘たるい
まぐわいをいたしましょうよ、と
誘われるままに衣服をぜんぶ剥いで放火マの眼の中に放りこむ
衣服はせきせきと燃える
放火マは炎を見ている
その眼の中で幾度もいくどもほとんど水のようになって恋人とまぐわう
果てるということは、ない
放火マの眼の中に棲むようになって久しい
恋人は放火マの眼の中から甘たるい声でぼくを呼ぶ
20060105
posted by 日菜清司 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | my song | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月03日

茶摘み

かゆいとこありまひぇんか、といひながら猫の頭を撫でてをりたり (小池光

タケノコトリさんと相並んで砂利道を進む
歩くたび砂利とタケノコトリさんの履物が擦れる音がする
ちゃつみ、ちゃつみ、と聞こえる
タケノコトリさんの右耳がぴんと立っている
平生このように右の耳は立ってはいない
おや、と思うが切り出せぬ
このような態もあるのだろう
砂利道を進む
ちゃづつ、ちゃづつ、と聞こえる
しばらくするとタケノコトリさんの外皮が白い毛で覆われる
雪は降っていない
平生のタケノコトリさんはつるつるとした赤子のような肌である
おや、と思うが切り出せぬまま砂利道を相並んで進む
こっぷ、こっぷ、と聞こえる
そのまま歩きつづけるやタケノコトリさんは履物を履いていないと気づく
おや、と思うが切り出せぬ
ま白い7mmの毛で覆われた裸足である
砂利道を進めども音を立てない
もうほとんど猫のなりである
いい陽気ですね、ほとんど猫のなりのタケノコトリさんは云う
そうですね、ぼくは応える
なにも切り出せぬまま砂利道を相並んで進む
いい陽気である
唾液をぬりたくって顔を掻きまわす仕草は実にかわいい
ぼくたちは音を立てないまま砂利道を進みつづけていく
20060103
posted by 日菜清司 at 19:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月30日

七色

二段飛びまではいかねど階段をゆく脚ぐんぐん今日元気なり (小島ゆかり

片想いの人の足音がする
螺旋階段を音階を奏でて昇るのである
ド・ソ・ミ・ド、で昇る
このような音階を奏でるのは片想いの人だけである
ほかの人では半音ずれたりはざらである
いつもよりオクターブ高いド・ソ・ミ・ド、で片想いの人が昇ってくる
いいことがあったのだろう
ぼくは片想いの人の到着に合わせて塔のてっぺんから七色の糸玉を転がす
虹をつくらねばならない
20040823
posted by 日菜清司 at 19:01| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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