2006年07月06日

埋玉

この春はちぢむ乳房のをかしくもかろき心となりて梅見る (日高堯子

花の名を教えていただく
マニキュアの壜が転げる
聾の恋人の指はゆくゆくと聞いたこともない美しい名になっていく
恋人の指が取れて落ちる
その名を指で形作るたび落ちる
ぽろろ、ぽろろ落ちる
土に降りた聾の恋人の指は女の子になる
赤いのやら緑のやら橙のやら紫のやらそれぞれの色の帽子を被っている
女の子たちは銘銘に土に潜る
花が咲くのよ、恋人は教えてくれる
聾の恋人は喉へぼくの手を導く
花の名を告げた喉はいっとう柔らかい
そのまま力を加えずにすんと絞まっていく
060706
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2006年06月07日

斑葉

あいみてののちの心の夕まぐれ君だけがいる風景である (俵万智

片想いの人の羽根が伸びている
平生はかようではない
しかと注視しないと羽根があることにさえ気づかない
それが存外に伸びている
片想いの人が着ている水玉模様のワンピースを突き破って羽根は鮮やかな黄色を帯びて伸びている
背中に乗りませんか、片想いの人は云う
云われるままに乗る
ふうわと、浮く
50cmから80cmばかりの地点を揺れながら、浮く
チャックを外していただけませんか、片想いの人は云う
云われるままにワンピースのチャックを外す
片想いの人は甘言を漏らす
背中がすんと揺れる
片想いの人の着衣をすべて剥いで床に放る
ヒヤシンスの香水の匂いがいっとう甘たるい
0600607
posted by 日菜清司 at 22:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月23日

江湖

陸で溺れるぼくたちはこんなにもシャツを洗えるみずうみをもつ

蛙に誘われて枯れた泉の底を拭きに行く
夏至でございますし、蛙は云う
このような古式ゆかしき泉磨きでもひとついかがでしょうか
そういうわけで泉を拭いている
蛙に誘われては断れない
乾雑巾で拭く
これが骨である
でこぼこで膝を剥く
枯れた泉は相当に広く荒れている
蛙は手際よく磨いていく
ぴょん、ぴょん、と四隅を輝かせる
さて、蛙は云う
こんなものでございましょう
来年の夏至はあちらの泉を磨きに参りましょう、と
豊潤な泉を指差す
あれは豊かな泉ではないですか、ぼくは問う
枯れてしまうとは到底思えません、と
いいえ、蛙は応える
どんな泉も必ず枯れるのでございます
そしてその底を拭いてやるとふたたび豊かな水が湧きだすのでございます、と
蛙は緑のシャツを脱いで磨いた泉に跳びこむ
枯れた泉から新しい水がふつふつと湧きだす
蛙はどことなく先ほどよりも蛙らしく見える
060523
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2006年05月17日

音容

抱くとき陽射しの匂うやさしさはピアノの蓋にちるさくら花 (加藤治郎

眠るタケノコトリさんの唇に女の子がいる
上唇に頭を乗せて下唇で脚をばたつかせている
薄桃のワンピースを着た女の子である
こんな女の子はついぞ見たことがない
こんにちは、ぼくは云う
ふりゅららったりゅっぱ、女の子は応える
おいで、ぼくは手を差し出す
りゅら、女の子は背中の羽根をはためかせる
楕円の弧を描いてすうと飛ぶ
ちょうちょ、ちょうちょの唄の速さで飛んでくる
楕円の頂点で動きを止める
大丈夫ですか、ぼくは問う
りゅら、りゅうらたっぺ、女の子は応える
静かに羽根を畳んで下降する
ぼくの手のひらに乗る
てんでやわらかい
壊さないよう指を折る
タケノコトリさんは眠っている
唇に女の子をそっと戻す
060509
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2006年05月09日

井筒

どこに行けば君に会えるということがない風の昼橋が眩しい (永田紅

眼球を貸していただけませんか
片想いの人が求めるので黒目をくりぬく
どうぞと貸してやる
いつものことである
膝も指も鼻も血液もあらかたの臓器も片想いの人に貸したままである
なにひとつ戻ってこない
貸せと云うから、貸す
すごいわ、
まだ名前のついていないありとあらゆる色が見えるわ、片想いの人は云う
ぼくが貸した脚をつけた片想いの人はせせらせせらと流れる川向こうへ歩いていく
名前のついていない色をちぎる
名前をつけてはぼくが貸した臓器に詰めていく
次は耳だろうか
20051217
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2006年04月25日

虹彩

手づくりのいちごよ君にふくませむわがさす虹の色に似たれば (山川登美子

新しい虹ができましたわ、恋人から虹を頂く
どこにでもある普通の虹である
それぞれの色の帽子を被った七人の小人である
帽子はわたくしが編んだのですよ、
どうぞかわいがってやってくださいまし、恋人は云う
小人をひとりずつ口に含んで口移ししてくださる
ぼくの口に虹ができる
そのまま持ち帰る
やはり虹であるから水の周りに置いたほうがよかろうと浴槽に小人を浮かせてやる
気持ちよさそうにゆらと泳ぐ
七人で美しい半円の虹の弧を描いてくれる
ほうと見惚れる
見惚れたまま眠ってしまう
迂闊である
うたた寝をしているうちに六人が溺れ死んでしまった
生き残った赤い小人と死んでしまった六人を口に含む
恋人に返しに行く
蘇生するだろうか
060413
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2006年04月14日

瀬音

まみえしはこの世の櫻ちる櫻腐る櫻よなれど遇ひにき (紀野恵

いつもぶかぶかの桃色の野球帽を被っている
川を歩いて渡るとき荷物を詰めるのである
鮭の燻製とブルーベリーヨーグルトとエジプトの地図を桃色の帽子に詰めて被る
川向こうに住むトミタトミミさんに届けるのである
旨いうまいと云ってそれを喰う
足りないだろうと胡瓜と生ハムのサンドウィッチを差し出したがいらないと返される
トミタトミミさんは燻製とヨーグルトしか喰わない
川向こうは風の流れが悪く死者の悪臭と腐敗がひどい
一緒に川岸へ戻りましょうと誘うがトミタトミミさんは首肯しない
かつては川岸で共に暮らしていたのである
荷物さえ届けてくれればよいと云う
次に火星の地図をと頼まれる
帽子が風で飛んでしまわないよう手で押さえながら川岸へひとりで帰る
此岸の風と彼岸の風が混じり合い螺旋の渦となって桃色の野球帽を舞わせる
すんと風が止む
川魚の泳ぐ音がいっとう高く打つ
ぴちゃ、ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃぴちゃ
いつかのトミタトミミさんの睦言がする
魚は列を成して川の流れに沿って泳いでいる
ぼくは川岸へと歩きはじめる
060414
posted by 日菜清司 at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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