2006年12月01日

薫修

こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり (山崎方代

ファクシミリの赤いランプが点滅する
恋人が来るのである
まずは花が届く
ファクシミリの紙片を集めて花にする
ほどなく恋人がファクシミリでやってくる
散らばった紙片を集めて恋人の姿色を作るのである
乳房にふうと息を吹きかける
すると恋人はほのと熱を帯びて目を開ける
ひとしきり舌と舌を絡めあわせると恋人はばらばらの紙片になっていく
帰るのである
ファクシミリの番号ボタンを押して送り届けてやる
部屋に残った花がつんと香る
061201
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2006年10月31日

氷魚

一心に船漕ぐ男遥に見ゆ金色の日がくるくると射し (北原白秋

望遠鏡に少年が住みついて久しい
箒星を見ているときに気がついた
レンズの縁をえんえん走りまわっている
フレームの端に少年が映える
気になると言えば、気になる
晴れた夜には流星をひとつ掴んでくれるので目こぼしにしている
穀を食い潰すわけでない
レンズの縁に蜜を塗ってやると舐める
舐め終わると再び円形のレンズの縁を走りまわるだけである
少年が掴んだ星がわんさとある
ポケットはじんと熱い
もういらないと言えば、いらない
わんさとある星をいかようにするか思案している
少年はようようと泳いでいる魚座の尻尾に手を伸ばす
欲しいかと言えば、やはり欲しい
061031
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2006年10月17日

溶溶

「中学のころまで『金魚すくい』って『金魚救い』と思い込んでた」 (千葉聡

雪ではなかった
聾の恋人は指文字で教えてくれる
千代紙の雪がしんしん降り積もっているのです、と
指はひやこい
恋人の指は床にぽろぽろ落ちる
文字になるや指は一瞬だけ熱を帯びる
やがて溶けて消える
千代紙の雪は降り続ける
聾の恋人はどれだけ積もったか夜を通して教えてくれる
千代紙の雪は溶けないので片づけが骨である
061017
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2006年10月10日

隻眼

処女のころけんけんぱした少年も片目でしたね、森がみえます

けたたましく扉が叩かれる
フラミンゴがやってきたのだ
足音でわかる
タケノコトリさんは不貞寝して誤魔化す
扉は乱暴にいつまでも叩かれる
フラミンゴは忍耐強いので一度決めことは絶対にやりぬく
だからといって扉を開けるべきではなかった
フラミンゴは素早くタケノコトリさんの右の眼球を奪って逃げる
いつものことであるが困る
フラミンゴの家まで眼球を返してもらいに行かねばならない
フラミンゴは汚れた眼球を磨かずにいられないのである
これが骨である
片目で歩くのはいつまでたっても慣れない
タケノコトリさんはぴかぴかの眼球をつけてもらう
なかなかいいもんだろ、フラミンゴは云う
なかなかなんである
060214
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2006年09月23日

星雨

久方の天に一つの星ありて水にすがたをうつしけるかも (尾山篤二郎

水溜りに女の人が住んでいる
700年ほどになる
かしかし、かしかしと聞こえる
ゴイサギの白斑の羽を洗っている
どうして水溜りに住んでらっしゃるのですか、ぼくは問う
400年ほど前のことだろうか
星座になぞなりませんわ、女の人は応える
かしかし、かしかし
水溜りから羽を洗う音が聞こえる
白斑の羽を外したゴイサギが水溜りの中から空を見ている
水溜りに女の人が住んでいる
700年ほどになるだろうか
20050508
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2006年09月14日

滝絞

自然がずんずん體のなかを通過するー山、山、山 (前田夕暮

滝を売っているです、羽根のあるひとは云う
どんな滝ですか、タケノコトリさんは問う
どんな滝も作るです、羽根のあるひとはタケノコトリさんの衣服を剥ぎながら応える
緑色のフレアスカートとニット帽子とシャツがすぅと床に落ちる
どうもこの滝は死にかけているです、タケノコトリさんのはらわたを指でつまんでは羽根のあるひとは云う
タケノコトリさんは甘言を漏らす
滝が死ぬとどうなるのですか、赤色の下着がほとんど肌蹴てしまったタケノコトリさんは問う
あらゆるものは死にかけているです、羽根のあるひとは云う
滝はその始まりに過ぎませんです、タケノコトリさんの衣服はすべて剥がれてしまう
しかし滝は必要であるです、羽根のあるひとは云う
死の速度は様様であるです、部屋はこぼれたヒヤシンスの香水で甘たるい
滝はその源であるです、羽根のあるひとはタケノコトリさんの臓器に手首まで入れて掻き回す
タケノコトリさんは眠るように目を閉じていっとう甘い甘言を漏らす
じきに出来上がるです、羽根のあるひとは云う
060914
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2006年07月25日

磨墨

ほゝゑみてうつゝごゝろにありたゝす百済ぼとけにしくものぞなき (會津八一

石を拭く
20cmばかりの細長い石である
ほほ、ほほと聞こえる
ただの石ではない
ほほ、ほほと鳴る石はついぞない
なんの石かというとなんの石でもない
タケノコトリさんに譲っていただいた
ほほ、ほほと鳴る石です、と
いい音色である
しずしずと脊髄を揺らせる
ほほ、ほほと音をだす拭き方がある
タケノコトリさんに拭いていただく
ガーゼを畳む
もう半分に畳む
ほほ、ほほといっとう艶かしい音色が響く
このような音色を奏でることはできない
060725

posted by 日菜清司 at 20:17| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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