2006年03月01日

兎耳

ああいつた神経質な鳴り方はやれやれ恋人からの電話だ (荻原裕幸

恋人が片の耳を置いていく
帰るとき右の耳を千切るのである
わたくしだと思ってかわいがってやってください、恋人は云う
どうか睦言をたくさん聞かせてやってくださいな、と
きっと、きっとよ
恋人の耳に吊るされていたピアスの兎が縦横無尽に部屋を飛び跳ねる
すばしっこく実に難儀である
夜を通して兎を追いかけている
漸く追いつく
すでにぼくの部屋のなんもかんもが兎の穴倉へ持っていかれてしまった
兎はひひと笑って恋人の耳へと戻る
いっとうすんとした朝である
06030
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2006年02月23日

乳頭

モルヒネも効かぬ五月の病床であなたの指に指を絡める (宮田美乃里

乳を噛んでくださいと聾の恋人の指は云う
云われるがままに水でできたひとは乳を噛む
もっと、もっと、強く噛んでくださいと聾の恋人は指を這わせる
強く、強く噛む
赤紫の乳頭がつんと立つ
噛み千切る
聾の恋人は苦悶に身をよじる
赤紫の乳頭は水でできたひとの口内でちいさな女の子になる
聾の恋人は熱くなった指先を水につける
水の音ばかりがいつまでもやまないで打つ
赤紫の女の子はひょんとリノリウムの床に立つ
聾の恋人の指が赤紫の女の子を拾いあげる
女の子は指をぺろり舐める
舐めるので聾の恋人の指は縮んでゆく
水の音と赤紫の女の子の心音が混じりあってよもや区別つかない
060223
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2006年02月14日

蜜語

ことばより水はやきかな三月のわが形代に針ふる岬 (山中智恵子

聾の恋人はあちこちに指を落とす
幾百の指はてんでに転げる
ローズマリーのマニキュアの匂いが甘たるく広がる
ぼくは指を拾い集めて言葉にしてやる
りきゅらりゅっぱひららりゃっぺ、聾の恋人の指は云う
聾の恋人の指を集めて言葉にする
りきゅらりゅっぱひららりゃっぺ、と
聾の恋人は矢継ぎ早に長いながい話をはじめる
指はあちこちに落ちる
一本ずつ丁寧に集める
乱暴な指も柔らかい指もある
鋭いのも冷やこいのも熱いのも電気の流れるのもある
それらの指はつぎつぎと言葉になる
ローズマリーの匂いがすんと甘たるい
りゅーりゃらっぺらられらった、聾の恋人の指は云う
たゆたう夜を通して指を集めつづけている
060214
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2006年02月09日

余震

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか (河野裕子

鯰が帰ったあとなので仕様がない
やはり鯰であるからずいぶんと暴れる
そこのところは心得ている
そうは言っても台所を破壊されては難儀である
鯰が軽くふるうだけで飾り棚からあらゆるものが落ちてくる
生温かいつぐら、半分に折り畳んだキバエミミさんの祖母、赤い帽子の小人たち、スペアの眼球、そうしたものが揺れに耐え切れず落ちてくる
台所はしっちゃかめっちゃかである
ひとところ暴れると鯰は帰る
キバエミミさんはひとり部屋に取り残される
心音がどくと高打つ
鯰が帰るといつもこうである
060209
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2006年02月02日

彼岸

とりもどすことのできない風船をああ遠いねえと最後まで見た (東直子

タケノコトリさんが帰ってこない
紋白蝶に聞いても鶺鴒に聞いても知らないと云う
そういえば、紋白蝶は云う
背中の黄色い羽根がずんぶんと生えていらしてムラサキハナナの蜜を吸っていらっしゃるタケノコトリさんにお会いしましたわ、と
でも、鶺鴒は云う
しばらくタケノコトリさんを見てねえだね、と
ぼくの知っているタケノコトリさんとは様相が違うようである
背中の羽根は肩甲骨に隠れてほとんど見えずせいぜい10cmほどしか飛べなかった
いつの間にそれほど飛べるようになったのだろう
もし、ぼくは云う
見かけたら探していたことをお伝えいただけますか、と
ムラサキハナナの蜜が甘たるい
またお会いできるといいですわね、紋白蝶はひらりと菜の花へと消える
あんまり気にすることねえだね、腹でも減ったらそのうちに帰ってくるだよ、鶺鴒は今しがた出来たばかりの群青の空へと消える
ためしに左足にぐいと力を込めてみたがとんと飛べない
ぼくの背中には羽根がないのである
ぽつねんと空を見ている
060202
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2006年01月25日

隻眼

こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり (山崎方代

片の眼球がよく、取れる
片の目がないとコップを手に取るのも難い
取れると、くっつける
くっつけるとコップを掌中にできる
それでも片の眼球はよく、取れる
片の目がないと眼前の恋人を抱擁することが難い
ここよここよと恋人は云う
取れたので、くっつける
くっつけると目の前の恋人を抱擁できる
恋人はほのとあたたかい
片の眼球がよく取れるので難儀している
20060125
posted by 日菜清司 at 19:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月17日

苺ジャム

硝子粒ひかる路面にふたり立つ苺畑の見張のように (穂村弘

苺ジャムの瓶を落とした拍子に片想いの人が、壊れる
ときどき、壊れる
両の手で落としてしまわぬように持っているがつるんと、滑る
アスファルトに落としてこなごなに壊れてしまう
いましがたまで片想いの人と呼んでいたけれどそうなると名は、ない
名がないと後ろから呼びかけるときにまごつく
片想いの人と呼んでいたこなごなの人は陽光に照らされてじつと、いる
いつまでもそこにじつと、いる
名を呼ぶ必要も、ない
夜になると元の片想いの人の姿に戻って立ち上がりすたすたと歩いてゆく
そうすると後ろから名を呼びかける
片想いの人はくるりと踵を返してこちらを、見る
苺ジャムの瓶のなかに片想いの人を詰めて家へ帰る
蓋を閉じても閉じても甘たるい匂いがすんとあふれだしてならない
20060117
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2006年01月11日

ゆびもじ

ぼくはただ口語のかおる部屋で待つ遅れて喩からあがってくるまで (加藤治郎

聾の恋人が指を忘れて帰る
過去形の話をしたせいだろうか
マンダリン・オレンジのマニキュアが甘たるい
指を拾い集める
あちこちに転がっていて揃えるのは骨である
指かと思って拾おうとすると赤い帽子の女の子やら青い帽子の男の子やらが、いる
100人ほどだろうか
指ほどの大きさの女の子やら男の子やらはおしくらまんじゅうごっこやら滑り台ごっこやら隠れんぼやらめいめいで遊んでいる
すんと眩暈がする
部屋はいっとう甘たるい
遊んでいる女の子やら男の子やらに長椅子の上から外へ出てはならないときつく注意してから聾の恋人の指をふたたび拾いはじめる
指はまだほのと熱い
20060109
posted by 日菜清司 at 19:32| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月03日

茶摘み

かゆいとこありまひぇんか、といひながら猫の頭を撫でてをりたり (小池光

タケノコトリさんと相並んで砂利道を進む
歩くたび砂利とタケノコトリさんの履物が擦れる音がする
ちゃつみ、ちゃつみ、と聞こえる
タケノコトリさんの右耳がぴんと立っている
平生このように右の耳は立ってはいない
おや、と思うが切り出せぬ
このような態もあるのだろう
砂利道を進む
ちゃづつ、ちゃづつ、と聞こえる
しばらくするとタケノコトリさんの外皮が白い毛で覆われる
雪は降っていない
平生のタケノコトリさんはつるつるとした赤子のような肌である
おや、と思うが切り出せぬまま砂利道を相並んで進む
こっぷ、こっぷ、と聞こえる
そのまま歩きつづけるやタケノコトリさんは履物を履いていないと気づく
おや、と思うが切り出せぬ
ま白い7mmの毛で覆われた裸足である
砂利道を進めども音を立てない
もうほとんど猫のなりである
いい陽気ですね、ほとんど猫のなりのタケノコトリさんは云う
そうですね、ぼくは応える
なにも切り出せぬまま砂利道を相並んで進む
いい陽気である
唾液をぬりたくって顔を掻きまわす仕草は実にかわいい
ぼくたちは音を立てないまま砂利道を進みつづけていく
20060103
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2005年11月30日

七色

二段飛びまではいかねど階段をゆく脚ぐんぐん今日元気なり (小島ゆかり

片想いの人の足音がする
螺旋階段を音階を奏でて昇るのである
ド・ソ・ミ・ド、で昇る
このような音階を奏でるのは片想いの人だけである
ほかの人では半音ずれたりはざらである
いつもよりオクターブ高いド・ソ・ミ・ド、で片想いの人が昇ってくる
いいことがあったのだろう
ぼくは片想いの人の到着に合わせて塔のてっぺんから七色の糸玉を転がす
虹をつくらねばならない
20040823
posted by 日菜清司 at 19:01| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月26日

はだか

会える日は化粧を落とす
 頬と頬へだてるものはなにもいらない (林あまり


おや、とタケノコトリさんは視線を落とす
コップのなかから液状になった水でできたひとが呼んでいる
ときおり水でできたひとは液状に、なる
平生の水でできたひとはネクタイやらワイシャツを着て生温かい声でタケノコトリさんを呼ぶ
液状になった水でできたひとの声はひんやりしている
いらっしゃいな
こっちにいらっしゃいな
まぐわいをいたしましょうよ、と
わたくしは水でできていませんから液状になってコップのなかに入れませんわ、タケノコトリさんは応える
だいじょうぶ
いらっしゃいな
それはとても簡単なことです、水でできたひとは云う
タケノコトリさんは衣服を剥いでコップのなかへするりと入る
いくぶんタケノコトリさんの態が残ってはいるがすんすんとそれがタケノコトリさんの液体なのか水でできたひとの液体なのかわからないほどに混ざっていく
ころん、と先ほどまでタケノコトリさんが身につけていたイヤリングが転がり落ちる音が響いて、止んだ
ふたりが重ねる液状の音だけが部屋にいつまでもいつまでもいっそう鳴り止まないでいる
牡丹の花がほつほつと落ちていく
20050622
posted by 日菜清司 at 10:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月18日

ほおずり

要するに、うさぎの耳が長いのと同じであたしのほっぺは赤い。 (紅茶イチコ

月でうさぎが跳ねている
夜がすんと震える
ほら、恋人は云う
ほんとだ、ぼくは応える
夜はすんと震えている
いきましょうよ、恋人は云う
月へ?、ぼくは問う
ええ、歩いていけないところはないわ、恋人は云う
なるほど、ぼくは応える
アップルパイを100枚焼いてぼくと恋人は頬と頬をくっつけたまま歩きだす
恋人はこれまでに聞いたこともないくらい長いながいながいながいながい話をそっとはじめた
ぼくの耳はその話を聞くためあらかじめ用意されていたようにぐんと伸びる
すんと夜は震える
20051117
posted by 日菜清司 at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月17日

祖母のむらさきさん

うすむらさきに夜があけるころ霧はたち去る夜と同じところへ (小林久美子

タケノコトリさんが拾ってきたむらさきさんは液状であった
いろいろな形状のむらさきさんがいるのである
図鑑によると手のひらに乗るのやら、6mはあろうものやら、耳掻き棒の先っぽでくうくう眠っているむらさきさんもいる
であるからタケノコトリさんが拾ってきたむらさきさんが液状であってもなんら不思議はない
むらさきさんを水差しに入れて持ち帰る
近頃ではめっきりむらさきさんを見かけることがない
タケノコトリさんの祖母の幼いころにはラベンダー畑に30から50のむらさきさんがぱたぱたと走り回っていたそうである
それが近頃ではラベンダー畑に行っても耳朶ほどのむらさきさんの死骸を見つける程度である
タケノコトリさんの祖母はいたくよろこんでむらさきさんの世話を焼いた
水差しを洗い餌の小魚の骨を丁寧に取っては食べさせてやる
祖母はだんだん縮んでいく
半分くらいだろうか
祖母はありがたいありがたりと云ってはむらさきさんの世話を焼いている
祖母はみるみる縮んでいく
半分の半分くらいだろうか
むらさきさんはよく食べよく育つ
朝、祖母は小指の先ほどに小さくなって死んでいた
水差しでは足りないほどに大きく育っているむらさきさんはタケノコトリさんが与える餌には口をつけない
むらさきさんはみるみる衰えていく
もうそれが秋の雨かむらさきさんの液体かおよそ区別できない
祖母が死んでから雨は降りつづいている
20041105
posted by 日菜清司 at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月04日

むらさきさん

うすむらさきずっとみていたらそのようなおんなのひとになれるかもしれない (今橋愛

むらさきさんはラベンダー畑で拾ってきた
くうくうと眠っていたのである
このご時世なかなかむらさきさんに出会えるものではない
そういうわけでむらさきさんを拾ってきた
ちょうど手のひらに乗る大きさである
が、近頃はぼくの膝小僧の背丈にまでなっている
むらさきさんはすくすくと成長している
簡単な言葉なら解する
洗濯物を取り込んだりYシャツやらハンカチにアイロンをあててくれたり鯵の日干しを拵えてくれたり甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのである
そんな日々がいくらかつづく
むらさきさんの背丈はぼくの腰骨のあたりまで伸びてきた
すくすくと成長しているのである
すると夕方になっても洗濯物を取り入れなくなりアイロンは雑で皺だらけである
鯵の日干しは真っ黒で食えたものではない
ぐうたらと横になってはポテトチップスを食べながらテレビのワイドショーを見ている
話す言葉も乱雑になってきた
てめえよーこのでべそー
ったくよーこのたんしょうほうけい
ざけんじゃねえよーこのいんきんたむしー
もはやラベンダー畑に返しにいくわけにいかない
ひどい言葉でなじられるのは不可避である
むらさきさんは日々はしたない女の子に成長しつつある
20051004
posted by 日菜清司 at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月17日

あたらしい耳

武道館ファイナルをむかえジャイアンが不遇時代をついに語った (緒川景子

新しい補聴器の具合がすこぶる良い
前の耳は齧られてしまった
新しい補聴器はふわふわの毛だらけで長い
さっそく側頭部に取りつける
するとおめめは赤く尻尾がくりくりと生えてくる
ほとんどウサギのなりになる
そうするとどんな音も聞き逃すことはない
誰のどんな言葉も美しい音階として耳に届く
色鮮やかな飴玉がちりぢりに弾む
ぼくはすっと耳を澄ませる
ここではないどこかから獣の呻き声が聞こえる
もう決して耳を齧られまい
ドラえもん短歌
posted by 日菜清司 at 15:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月25日

過呼吸

アカンボノヨウニスイツクキミガイテアタシハナニヲシテアゲラレル? (川上史津子

吸ってばかりで吐くのを忘れる
で、恋人はみるみる縮む
はんぶんくらいに縮む
それでも吐くのを忘れて吸ってばかりいる
さらにもうはんぶんくらい縮む
カンガルーの赤ん坊くらいにまで縮む
ポケットにいれて持ち運んでやる
撫でてやろうとポケットに指を突っ込んだらがぶり噛みつかれる
恋人は噛みついたらぜったいに離さない
だからいつも血だらけである
したたるぼくの血液を恋人はごくり飲み干す
posted by 日菜清司 at 23:08| Comment(0) | TrackBack(1) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月10日

はんぶんごっこ

さよならの今日の形は蝶だったジャングルにいる極彩色の (佐藤羽美

まどろみからゆっくりとうつつに戻る
すると背中がじんわりと熱い
姿見で背中を覗いてみると黄色い羽根が生えている
おでこからは2本の触覚が伸びている
半分ほど蝶のなりである
50cmほどならば、飛べる
蝶になったことなどついぞない
であるから心許ない
ゆらりゆらり飛んでみると昨日まで恋人だったひとに出会う
こんにちは、半分ほど蝶のなりをしたぼくが云う
あらこんにちは、
あなたほとんど蝶のなりをしているじゃないの、昨日まで恋人だったひとは云う
あたしったらあなたのことなにも知らなかったのね、と
恋人だったひとは金色の体毛に覆われて緑色の尻尾を生やし鋭い2本の牙がある
牙は曲線の弧を描き空へと伸びている
昨日まではこんな風体ではなかった
ぼくにしたところで恋人のことを何も知らなかったのである
さようなら、蝶のなりをしたぼくは云う
さようなら、緑色の尻尾の恋人だったひとは応える
ぼくはゆらりゆらりと飛び去っていく
恋人だったひとはのっしのっしと平原を歩いていく
獣の匂いをした風がぐんと吹いて金色の毛を空の彼方へと運んでいく
20050810
posted by 日菜清司 at 22:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月02日

名をつける

鎌倉で猫と誰かと暮らしたい 誰かでいいしあなたでもいい(佐藤真由美

水でできたひとと暮らしはじめて三週間と二日になる
水でできたひとは水でできているので名は、ない
うしろから呼びかけるときに困る
が、水でできたひとには前も後ろも右も左も真ん中も、ない
ひゅっと現れるんである
たいがいはどこにいるのやらてんでわからぬ
気がつくとひゅっと、いる
現れてはみょうが、胡瓜、薄切りたまご、蛸の酢漬け、いんげんの胡麻和え、ほうれん草のおひたし、つぎつぎと薬味を拵えてくれる
そのようにして水でできたひとと素麺を食すのである
こんな暮らしがずっとながく続きますように、ふつふつと思う
水でできたひとに名をつけなくてはならない
なんだっていい
うしろから呼びかけてみたい
そうして名をつけられた水でできたひとはこちらを振り向いていたく破顔するんである
20050802
posted by 日菜清司 at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月11日

たぶん雨

こんな日に三つ眼の猫と遭ったのだ 4月最後の雨の日だった (緒川景子

水でできたひとは水でできているので名は、ない
名がないとうしろから呼びかけるときに困るが水でできたひとには前も後ろも、ない
で、タケノコトリさんのほうから呼びかけることは、ない
水でできたひとはいつもコップのなかから声をかける
まぐわいをいたしましょう、と甘たるい声で云う
そう云われるとタケノコトリさんは衣服を脱いで液体になってコップのなかにするりと入ってまぐわいをする
幾度もまぐわう
粘っこくまぐわう
およそ水でできたひとの水かタケノコトリさんの液体か見分けられないくらい交じり合う
コップはゆらり波打つ
まぐわいが果てるとコップの水はすぅと、消える
水でできたひとの甘たるい声が雨音に消される
ここのところ雨ばかり降る
水でできたひとには名がないので呼びかけることができない
雨はいっそう激しく降る
20040929
posted by 日菜清司 at 22:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月30日

ひだり

ぽろぽろと涙をこぼしきみは今やっぱりわたし以外のだれか (盛田志保子

片想いの人がひだりの腕を忘れて帰られる
ちゃんと傘をさせただろうか
これで31本目である
片想いの人はいつも取りに来られない
会うたんびあたらしいひだりの腕をつけてらっしゃる
片想いの人はたぶんぼくのものにはならないだろう
20050630
posted by 日菜清司 at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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