2006年02月23日

乳頭

モルヒネも効かぬ五月の病床であなたの指に指を絡める (宮田美乃里

乳を噛んでくださいと聾の恋人の指は云う
云われるがままに水でできたひとは乳を噛む
もっと、もっと、強く噛んでくださいと聾の恋人は指を這わせる
強く、強く噛む
赤紫の乳頭がつんと立つ
噛み千切る
聾の恋人は苦悶に身をよじる
赤紫の乳頭は水でできたひとの口内でちいさな女の子になる
聾の恋人は熱くなった指先を水につける
水の音ばかりがいつまでもやまないで打つ
赤紫の女の子はひょんとリノリウムの床に立つ
聾の恋人の指が赤紫の女の子を拾いあげる
女の子は指をぺろり舐める
舐めるので聾の恋人の指は縮んでゆく
水の音と赤紫の女の子の心音が混じりあってよもや区別つかない
060223
posted by 日菜清司 at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月17日

編棒

みつあみは丁寧に編むあのひとは死んでしまった死んだのだ、うん

片想いの人に編んでいただいた手袋がひとりでに解ける
糸がするりするりと蠢く
心臓ほどの桃色の糸玉に戻る
指が剥きだしになって冷やこい
今しがたまで手袋であった桃色の糸玉はぽん、ぽん、と窓を飛び越える
坂をぽつ、ぽつ、と転げ落ちていく
片想いの人の影はここにいる
椅子の脚がひとりでに折れる
テーブルの風信子の香水が割れる
すんと片想いの人の匂いが広がる
060217
posted by 日菜清司 at 19:23| Comment(0) | TrackBack(0) | my song | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月14日

蜜語

ことばより水はやきかな三月のわが形代に針ふる岬 (山中智恵子

聾の恋人はあちこちに指を落とす
幾百の指はてんでに転げる
ローズマリーのマニキュアの匂いが甘たるく広がる
ぼくは指を拾い集めて言葉にしてやる
りきゅらりゅっぱひららりゃっぺ、聾の恋人の指は云う
聾の恋人の指を集めて言葉にする
りきゅらりゅっぱひららりゃっぺ、と
聾の恋人は矢継ぎ早に長いながい話をはじめる
指はあちこちに落ちる
一本ずつ丁寧に集める
乱暴な指も柔らかい指もある
鋭いのも冷やこいのも熱いのも電気の流れるのもある
それらの指はつぎつぎと言葉になる
ローズマリーの匂いがすんと甘たるい
りゅーりゃらっぺらられらった、聾の恋人の指は云う
たゆたう夜を通して指を集めつづけている
060214
posted by 日菜清司 at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月09日

余震

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか (河野裕子

鯰が帰ったあとなので仕様がない
やはり鯰であるからずいぶんと暴れる
そこのところは心得ている
そうは言っても台所を破壊されては難儀である
鯰が軽くふるうだけで飾り棚からあらゆるものが落ちてくる
生温かいつぐら、半分に折り畳んだキバエミミさんの祖母、赤い帽子の小人たち、スペアの眼球、そうしたものが揺れに耐え切れず落ちてくる
台所はしっちゃかめっちゃかである
ひとところ暴れると鯰は帰る
キバエミミさんはひとり部屋に取り残される
心音がどくと高打つ
鯰が帰るといつもこうである
060209
posted by 日菜清司 at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月02日

彼岸

とりもどすことのできない風船をああ遠いねえと最後まで見た (東直子

タケノコトリさんが帰ってこない
紋白蝶に聞いても鶺鴒に聞いても知らないと云う
そういえば、紋白蝶は云う
背中の黄色い羽根がずんぶんと生えていらしてムラサキハナナの蜜を吸っていらっしゃるタケノコトリさんにお会いしましたわ、と
でも、鶺鴒は云う
しばらくタケノコトリさんを見てねえだね、と
ぼくの知っているタケノコトリさんとは様相が違うようである
背中の羽根は肩甲骨に隠れてほとんど見えずせいぜい10cmほどしか飛べなかった
いつの間にそれほど飛べるようになったのだろう
もし、ぼくは云う
見かけたら探していたことをお伝えいただけますか、と
ムラサキハナナの蜜が甘たるい
またお会いできるといいですわね、紋白蝶はひらりと菜の花へと消える
あんまり気にすることねえだね、腹でも減ったらそのうちに帰ってくるだよ、鶺鴒は今しがた出来たばかりの群青の空へと消える
ためしに左足にぐいと力を込めてみたがとんと飛べない
ぼくの背中には羽根がないのである
ぽつねんと空を見ている
060202
posted by 日菜清司 at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌流歳歳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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